語るに及ばず

 まあ、あなたたちが一番気になっているのはこの辺ではありませんか?

「ヤルトーノイ」

 そうですね。確かに私はヤルトーノイの出身です。長い時間をヤルトーノイで過ごし、そして広大なウェイストプロージの大地を歩いてきました。けれどこの国に関して語れることはそう多くありません。遥か昔、盛栄を極め、そして『黒い滅亡』により滅んでいった。……ただそれだけのことです。

 けれどあなたたちを手ぶらでお返しするのが忍びないことは確かです。まあ、当たり障りない範囲でヤルトーノイのお話をするとしましょう。

 ヤルトーノイの中心地には、これでもかというほど豪華絢爛な宮殿がありました。ええ、そんなに広くてもむしろ不便だろうというほどでしたよ。というか実際不便極まりないものでした。あれは迷路を通り越して建物の通路に至るまでが飾り立てられた要塞のようなものです。二つ隣の部屋に行くだけで、私はなぜあれほど遠回りをさせられていたのでしょう。

 そして宮殿での流行りごと。そんなものは今も昔も変わりありませんよ。私が説明するよりも、むしろ今の時代に刊行されている宮廷恋愛小説に書かれている内容の方がリアルではないでしょうか。いやはや、新進気鋭の先生方の正確な筆致には驚かされるばかりです。つまりはそういうことです。宮殿での流行りごとの中に、私が好むようなものはほとんどありませんでした。唯一の楽しみといえば、食事とティータイムくらいのものです。ちなみにティータイム中の「楽しい」お話しには全く興味がありませんでした。

 なので今回、あなたたちにはヤルトーノイでのティータイムについての知識を持って帰って頂きたいのです。

 昔は、昔はですよ? 砂糖の塊を口に含んで紅茶を飲んでいました。今はやってないです。けれど私にとって馴染みのある紅茶の飲み方を広めたいので、一人でいるときによくやる飲み方をお教えしましょう。絶対試してくださいよ。旅先でもこの飲み方をしたくて仕方がないのですから。

 まず、紅茶は普段より濃く淹れてください。大丈夫です。長く蒸らしてくださって構いませんから。茶葉ですか? どこのメーカーでもよいでしょう。私の場合はチャンソン産を選んでいましたが、最近ザフォーグ産の相性の良さも気に入っています。

 そうしたら、ジャムを取り出してください。ええ、トーストとかに塗る、あのジャムです。信じてくださいったら。本当は果物のシロップがあると好ましいのですが、ジャムなら用意が簡単でしょう?

 そして次に、用意した紅茶……の前にジャムをスプーンで掬って口に含みます。だから疑わないでくださいって、本当に美味しいのですよ? ワイマルト産のジャム。あ、アトラシオン産も捨て難いです。ちなみにジャムは食べないでください。……もう食べた? ならもう一掬い口に含んでください。それから濃く淹れた紅茶を流し込むのです。もう一度言いますが、どうです、美味しいでしょう?

 もし抵抗があるようでしたら、ジャムを掬ったスプーンをそのまま紅茶の中に入れて溶かしてしまっても良いのですよ。砂糖を溶かすのと似ているとは思いませんか? けれど直接ジャムを口に含む方を私は強く勧めます。まあ、騙されたと思って。

 紅茶の相棒には様々な焼き菓子がうってつけでしょう。クッキーやパン、幅広くお好きなものを選んでください。私のお勧めはやはり、蜂蜜やスパイスの混ざった焼き菓子と、少し大ぶりで中心にジャムの入ったクッキーですかね。

 またジャム? と思いましたか? ヤルトーノイはフィルナイルほどではありませんが冷えましたからね。温かいものや味のしっかりしたものが好まれる傾向にあったのですよ。ですので私も例に漏れず、ジャムが好きです。ワイマルトのミネトヤというメーカーのジャムが私の今のお気に入りです。特に「ワイルドベリーミックス」! これなら濃く淹れた紅茶の味にもよく合うのですよ! さあお手持ちの端末からミネトヤで検索を掛けて注文してください、そしてミネトヤの売り上げをアップさせて「ワイルドベリーミックス」の生産量を増やすのです! さあ早く!

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 キゾシュイェグツウィ、最近やけに仕入れたジャムが捌けていくのはお前の仕業か? 次は何をしでかした? トスルークェノ

 ライフワークというヤツですかね。 キゾシュイェグツウィ

 仕方がないから俺は仕事でもするか。お前は来期減給にしておく。 トスルークェノ

 理不尽な人でなしとかですかあなたは? キゾシュイェグツウィ

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