『タイプライター』のサンドボックス

 初めまして、でよろしいでしょうか。
 ツァグ・レ・ヤルクァルドラ・ミルと申します。『編纂者』の手記を手に取り、読んでくださっている皆様にとって、名前くらいは目にしたことがあるかもしれません。

 端的にお話ししますと、私はキゾシュイェグツウィ先生の助手です。先生というのはあだ名のようなもので、特に何かを師事したことはないのですが。
 ともかく、この『編纂者』の手記の完成の一部に私は携わっております。
 先生が書き上げ、トスルークェノ様が余白に書き込み、それに対抗するように先生が追記した草稿を編集部に持ち込み、編集の方と打ち合わせをしてから、長年使っているタイプライターで完成稿を打ち込むことが私の主な仕事です。打ち合わせに先生が来たことは一度もありません。ですので、草稿のどこを消すのかだけではなく、どこを残すのかも私たちの自由なのです。基本的に二重線の引かれた、先生からトスルークェノ様への異議申し立ては全て残してあります。読者の皆様から無視すべきではない数のお便りを頂いたからです。

 さて、なぜ裏方であるはずの私のためにページが割かれているのかというと、それはひとえに先生の意向であったからです。私は必要ではないと言ったのですが、先生は「いつか必ず良い経験になるから」と仰り、引くことはありませんでした。
 ……そもそも、なぜ『タイプライター』である私に先生はサンドボックスという言葉をあてがったのでしょう? もちろん、私はコンピュータも問題なく扱うことはできるのですが、それでも手に馴染むのはいつもの古いタイプライターです。
 それに『タイプライター』の、サンドボックス。まるで私が自由に使ってもよいページであるのだと言われているようで、少し落ち着かない気分にもなるのです。与えられた仕事をこなすことが私の日課なものですから。

 けれど、先生の言葉に騙されたと思って時折文字を打ち込んでみることにしてみます。
 またお会いすることもあるかもしれませんが、そのときはどうかよろしくお願いいたします。

     *

 ツァグ、お話しがあります。
             キゾシュイェグツウィ

 俺も丁度お前に「お話し」があったところだ。
                トスルークェノ

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