擦り切れた子守歌を、もう一度
寂れた教会の長椅子からマティスはゆっくりと身を起こす。亜麻色の髪がさらりと流れて一つあくび、随分と眠っていた気がする。こういうときにありがちなことではあるが、起き抜けの不明瞭が抜けないグレーの双眸で瞬きをしたところで、何の夢を見ていたか思い出せない。
ところどころ崩れ焼けた、祈りを捧げるための部屋を見回してから、ゆっくり伸びをして立ち上がる。皮肉なものだ。神を信じる者が集っていた場所が、こうして誰からも見放されてひっそりと存在している。たとえ神が本当にいたとして、それは確実にここではないだろう。かつて誰よりも真面目に神を信じていたあの少女も、もうこの場所にはいない。あの頃見上げていた柱時計はすっかり壊れ、酷く小さく見えた。
そんなことを考えていたら、どうにもやり切れない気持ちになって、隣に置いていた神学の教本をやや乱雑に鞄へ押し込む。割れた窓から木枯らしが入り込み、体をいたずらに冷やしていく。
秋も深い。そろそろ建国祭が始まるのに反して静かな教会を、マティスは後にした。