座標 ヤルトーノイ
あの装置がウェイストプロージの地表に落下してから、惑星全ての生命が始まりを告げた。彩りを増す地表と空に反して、装置は鈍い金属色を更に濁らせていく。
……現在という保障がなければ、きっと絶望していただろう。
*
「やはりそこから観測しに行くだろうと思っていたよ」
液晶の白と黒が記した文字列をひととおり眺めてから、目の前のソレーヌは笑う。よく微笑む男だが恐らく社交術だろう。透明な彫刻のように整えられているのだから。
さて、この何でも知っていると言わんばかりの超然とした態度の男が投げかけた言葉に答えなければならない。付け足すとするなら何でも知っている、というのは決して比喩などではない。
ソレーヌという男は、このウェイストプロージという惑星の過去から未来まで、ありとあらゆる「記憶」を保持している。だからこそ、レテはソレーヌの「記憶」の魔法の力を借りて、ウェイストプロージの始まりを観測することができたのだから。
「レテ?」
何か気に障ることを言ってしまったのならすまない、とソレーヌはバツが悪そうに笑う。また笑っている。だが思ってもいない冗談だろう。
「何でもない、少し頭の中を整理していただけだ。それに」
「それに?」
レテとは対照的に、ソレーヌはずっと微笑んでいる。別にレテは怒ってはいない。思ったことが顔に出づらいだけだ。
「何が大切か、私は別に隠すつもりもない。だから気に障るようなことは何もない」
くすり。
ソレーヌが時折見せる本当の感情。少し呆れるように……目を細め口の端を上げている。
「確かに、隠すつもりはないのかもしれないね。君は誠実な人だから。けれど人には死角というものがあるんだよ、レテ」
「いずれ私もウェイストプロージに怒りを覚えると?」
「いいや、むしろその反対だ」
星のように輝く深い青の双眸が、レテの淡い紫と合う。
「これから君は、きっと沢山の大切なものを見つけるんだ」
穏やかな声だった。昼も夜も曖昧なこの場所に、滲むインクにどこか似ていた。